どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

厳しさ

 採用面接の面接官をしていた私は、こんな人になりたいという人はいますか?と質問した。結構、ありきたりな質問内容。その後、間髪入れずに、家族以外でお答えください、と続けた。家族以外と付け加えたのは、この質問をすると、大体の人が両親のどちらかを答え、何の参考にもならないからだった。少し考えた後、高校の時の部活動の顧問です、と学生は応えた。具体的に、どういったところでしょうか、と私はさらに質問した。華があります。華があるって、素敵な表現ですね、と感想を述べ、もう少し、具体的に教えていただけないでしょうか、とさらに質問。厳しさもあるけど、優しさもあるというか、すみません、うまく伝えることができません、学生はそう応えた。厳しさというキーワードに、嬉しさを感じた。

 そんなことを思い出しながら、私は、コメダで、Numberをめくった。イチローのインタビュー記事。現役のイチローよりも、現在のイチローのほうがカッコよく見える。なぜ、カッコよく映るのかを考えた結果、イチローは本気だからだった。イチローほど、本気で高校球児に指導している元プロ野球選手を知らない。ただ、メディアに出ていないだけかもしれないけれど、私には、そのイチローの本気が新鮮に映り、かっこいいと思った。つまり、本気の姿というのは、誰でも、かっこいいということになるのではないかだろうか。

 ・・・挫折のない人の話なんて全然面白くないし、魅力的でもない。だからいろいろなことに挑戦して、経験し、自分の言葉を持てる大人になってほしい。情報過多となって久しい昨今ですが、経験の伴わない知識だけが蓄積していいくのは怖いものです『Number1072』 p13

 面接の質問で、私は、その人のマイナス面もよく訊く。挫折だったり、短所だったり。長所はあまり興味がない。挫折だったり、短所は誤魔化せないというか、よく見せようとはできるんだけど、よく見せようとする回答はつまらない。どちらかというと、よく、そこまで正直に答えるなという内容の方に惹かれる。イチローのインタビュー記事は、高校の野球指導から、マリナーズに移った。

 無理に自分の意見を押し付けることはしない。つまり、聞かれなければ言わない。その代わり、相手が興味を示したなら時間をかけて丁寧に説明する『Number1072』p16

 イチローがそうするのは、相手が、メジャーリーガーだからのような気がする。私の最近のもっぱらの考えていることは、部下とのコミュニケーション。この記事を読み、このイチローのやり方が合うかも、と思って、先日、部下との面談の際に伝えた。無理に意見を押し付けたくないから、聞かれるまで言わない、と。部下は、困ったような顔をしていた。

 ページをめくっていくと、ダルビッシュ有の記事。まだ記憶に新しいのはWBCダルビッシュ有のリーダーシップ。私には、ダルビッシュが宇田川会という食事会を開くなどしている様子から、現代的というか、仲良しこよしというか、そんなふうに写っていたんだけど、Numberを読み、少し誤解をしていたかもしれないと思った。

 若手と話す時、もちろん自分のためになればと思っていたし、若い選手たちのためになればとも思っていたけれど、それ以上に、お互いが早く近づかなくてはいけなかったですからね。そこで自分たちをつなぐ唯一のものは野球だったし、ピッチングだったから、それをコミュニケーションのツールとして使った、という感じですね『Number1072』p28

「ある程度研究している人じゃないと答えられないような質問をあえて僕がするから、向こうもそういうふうになってくるんじゃないかな。質問で、相手を変えることができるんですよ」『Number1072』p28

「自分は『他人が見えている世界』を尊重するようにはしています。例えば、自分が見ている世界とニック・マルティネス(パドレスの同僚投手、元日ハム、ソフトバンク)が見ている世界は一緒に見えるけど、生きてきた過程が全く違う。それなら、ものの捉え方が全く違ってくるじゃないですか。自分が『これが好きだ』と言っても他の人にとってはそうじゃないし、同じものが見えているかどうかも分からない」『Number1072』p28

 イチローダルビッシュ有の共通点は、相手を尊重しているということ。伝えよう、教えようという気持ちが強くなりすぎていたかもしれない、と自分を振り返った。

 先日、管理者になりたての部下から、〇〇さん(別の部署の先輩)と話ができて良かったです。お願いしていただきありがとうございました、と業務日誌に書かれていた。その言葉を読みながら、まずは他者のために動くということを忘れていたな、と思った。忘れてはいないけれど、結果的に、自分本位になっていたというか、どう伝えるのが良いのだろういうことばかり意識が向いていたな、と。

 野球を入口として、私は、自分の仕事を考えることがたまあにある。で、結構、参考になったりする。それはさておき、Numberには、阪神の岡田監督の記事も載っていた。今シーズン、私が注目している監督は、阪神の岡田監督である。なぜなら、球辞苑のコンバートという特集で、中野選手をショートからセカンドにコンバートした理由を話していて、岡田監督、すごいなあと思ったから。

 「目線は下げないよ。一軍はこのレベルだという目線を下げたら、チームは強くならない。でも(選手との距離感は)ちょっとは妥協する部分はあるわな」『Number1072』p28

 手取り足取り教えることは、もう終わっている段階だった。近年は指導者と選手が和気あいあいとしたチームも目立つが、岡田は流行に見向きもしない。『Number1072』p28

  「コミュニケーションて、はっきり言うたら、取らないといけないけど、取りすぎてもあかんと思うな。必要な時に必要なことを言う。適度なんが大事やな」『Number1072』p36−37

 岡田監督の、時代に迎合しない、選手に迎合しない姿勢。この姿勢は姿勢で素敵。