どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

一杯の珈琲

 コメダにて、おばあちゃんが、私に近づき、お邪魔します、と微笑み座った。その刹那、おばあちゃんの距離の詰め方が上手だな、と思うと同時に、このおばあちゃんと世間話が始まるな、と予感した。

 私の予感通り、おばあちゃんは話し始めた。

 こうして喫茶店でコーヒーを飲むことが楽しみなこと。10日に一度は、喫茶店に来たいこと。前日から、この日を楽しみにしていたこと。住んでいる住所と、ここまでタクシーで来ていること。タクシー代が往復3000円はかかること。旦那さんは3年前に亡くなり、それまでは、旦那さんと喫茶店に来ていたこと。私は、相槌を打ち、質問を重ね、素敵な過ごし方ですね、と感想を述べた。またお会いするかもしれませんね、と私はおばあちゃんに微笑んだ。

 おばちゃんは、タクシーを呼び、私に会釈をしてレジに向かった。店員から、タクシーを呼びましたか、と声をかけられ、おばあちゃんと店員はいくつかの会話を交わし、顔見知りなんだな、と思いながら、私は、その会話を聞くとはなしに聞きながら、見汐麻衣『もう一度猫と暮らしたい』を開いた。

 

 次の日だったか、次の次の日だったか、その日は、休日だったので、いつもよりゆっくりと朝を迎えると、妻が星乃珈琲店に行きたいと私に言ったので、鞄に数冊の本を入れ、2人で星乃珈琲店に向かった。

 私はアイスコーヒーとトーストを注文し、妻はホットコーヒーとトーストを注文した。お互いが持参した本を読んだり、思い出しても思い出せないほどのたわいのない話をし過ごした。

 私は、見汐麻衣『もう一度猫と暮らしたい』の続きを読んでいた。もう一度猫と暮らしたいというタイトルのエッセイがあった。子どもの頃、祖父母と暮らし、祖父母宅で猫を飼っていた話だった。私は、完全に、本の世界にトリップし、子どもの頃の見汐さんや祖父母、猫のミーちゃんを見ているようだった。

 私たち夫婦も、猫と一緒に暮らしていた。3年前にその猫が亡くなった。今も、猫の仏壇に、朝は、妻が線香をあげ、私は1日の終わりに、猫の仏壇に手を合わせる。もう一度猫と暮らしたいを読みながら、私たちが一緒に暮らしていた猫との最期の日を思い出した。