どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

つぶらな瞳

 コメダにて、鞄に詰め込んできたいくつかの本から、『ODD  ZINE vol.2』を取り出した。

 

 どんな犬でもいいんですけど、トイプードルがいい。人の悲しみに寄り添う速度が一番速い犬種なので。『ODD ZINE vol.2』p10

 

 そうなんだ、と、あるお宅で飼っているトイプードルを思い出した。いや、トイプードルなのか、と不安になったので携帯電話で検索して画像で確認すると、ぬいぐるみのような犬の写真が出てきて、やっぱりトイプードルなんだ、と思った。

 人の悲しみに寄り添う速度が一番速いのか。

 私が仕事で訪問する何軒かのお宅では、犬を飼っていて、私は、猫派なので、その犬たちをかわいいとか、好意的な感情を抱くことはないのだが、そのトイプードルだけは、かわいいと思っているし、かわいがっている。

 なぜ、かわいいのかと思い始めたというと、私が、そのお宅を訪問し始めた頃に遡る。

 信頼関係もままならず、不安を抱きながら、そのお宅に訪問していた頃、そのトイプードルは、毎回、私のところに来て、撫でてくれ、撫でてくれ、と私の足、膝の辺りに自分の顔を擦り付ける。かまってくれないと嫉妬をして、お粗相をしちゃったりする。私が帰る頃には、クッションで寝ていたはずなのに、玄関まで見送りに来てくれる。あのつぶらな瞳で。記憶が定かではないが、初めからそうしてくれていたのだろうか。

 私は、いつしか、この犬は、私を歓迎してくれているのか、応援してくれているのか、と思うようになり、心の中で、ありがとね、ありがとね、と、会うのを楽しみにし、私たち夫婦の会話に登場するようになった、唯一の犬である。

 

 『ODD ZINE』を手に取ったのは、私が好きな作家の一人である滝口悠生が参加しているからでもあり、ODD ZINE vol.2に『近所のハッケン伝』という短編小説が掲載されていた。

 ある夫婦が、近所で出会う犬たちとの物語で、その短編小説を読みながら、読後感を言葉にするのは難しいのだが、滝口悠生は、変わらず滝口悠生だな、と思った。ODD ZINEを手にしなけらば、この短編小説は、読めなかったであろう。読みながら、私は、一人の職員のことを思い出していた。時代が変わっても、誰と接しても、その職員は、変わらない。流されないというか。まだ20代なのだが、その職員と、この前、久しぶりに話をしたのだが、私はパワーをもらった。

 北海道も、この前まで春まっしぐらだな、と思うほど暖かく、雪が一気に溶け、道路が顔を出したというのに、今日は、雪が一気に降りそそぎ、冬に逆戻り。