どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

水木しげる

 水木しげる魂の漫画展を観に行った。作品を観ながら、子どもの頃の記憶では、どことなく怖い漫画という印象だったが、大人になって観る水木しげるの漫画は、緻密で、すごいと、感嘆の声が漏れた。平日にもかかわらず、多くの人が観に来ていて、懐かしむ会話が聞こえてきた。ここまで、作品をじっくり観るのも珍しく、出口を出て、ソファに座り、ぐったりとした。暖房が効きすぎていたというのもある。ゲゲゲの鬼太郎は、当初、墓場の鬼太郎というタイトルであったというのは、どことなく聞いていたけれど、ゲゲゲの鬼太郎というタイトルは、意味がわからないが、絶妙だと思った。ねずみ男は、どこか卑怯な印象があるが、この年になったからなのか、今なら、ねずみ男の気持ちが少しはわかるかもしれない。

 夕食は念願の有楽町だった。念願のわりには、これまで二度しか行ったことがなかった。店内に入ると、満席だった。地元の人たちに愛されてるのだろうな、と思った。コロナ禍の経営は大丈夫だったのだろうか、地元の人たちが、持ち帰りで買いに来たのだろうか。このような店は地元の人たちが守るのだろうな、と思いながら、7年前だったか、8年前に、訪れた時の自分を思い出し、その時、一緒に来た人の顔を思い出し、念願のホルモンうどんを食べた。

 

あんかけ焼きそばエビぬき

 指定された中華料理屋に到着した。中華料理屋は繁盛していて、カウンターにも、テーブル席にも所狭しと、人が座っていた。密といえば密。あんかけ焼きそば、えび抜きで、と私は注文した。油淋鶏と青椒肉絲でお願いします。私が一人で食べるわけではないですよ、と若い職員は店主に返していた。そうこうしていたら、もう一人が、お疲れ様です、と言ったかは定かではないが、たぶん言いながら、私の向かいに座った。

 話を訊きたいって、なかなか言われないから嬉しいよ。で、話って何?と、私は訊いた。

 一言でいえば、上司との関係についての悩みだった。マネジメント論を訊きたいって言ってたけど、それはマネジメントというより、人間関係の話だね。まあ、悩みのほとんどは、人間関係とも言うしね、と訊く姿勢をとった。

 なんで、上司のフォローを、部下である私がしないとならないのか。なぜ、上司は気づいてくれないのか。上司のほうが給料が高いというのに。

 こんなことなら、私が上司になったほうがよっぽど良い、と思ったのは、過去の私でした。若い職員が抱いた怒りは、多分、いつしかの私が抱いた怒り。最近は、怒りというより、悲しいと言った。悲しいのはよくない。まだ怒りのほうが良い、と訊きながら思った。実際、管理職になった私は、世の、中間管理職のお父さんたちは、こんなに苦しい想いをしていたのか、と初めて知った。ダメ上司と思っていた人の顔がどこか凛々しく感じたものだ。

 わからないものなんだよな、人の気持ちって。私もそうだけど。本当のところはわからない。気づけないというか。つい最近の話でいくと、私の部下の一人が、今年度いっぱいで退職したいと申し出てきた。本当のところはわからない。部下が言うように興味関心が変わったと言うのもそうなのだろうけれど、退職理由って一つではない。不満をあげればキリがないと言うように、他にも問題があったのだろう。かなり高い確率で。他の問題に私が気づけていれば、と後悔した。過去を振り返ると、ああ、あそこはサインを発していたのかもしれないだとか、ああ、心合わせをしとけば良かったとか、ああ、また失敗したなあ、とか思う。

 数年ぶりに、マイナスの言葉を浴びていたら、どこか調子が悪くなっている自分がいることに気づいて、マイナスの言葉を浴びるというのは、こういうふうになるのだ、と思った。自分にくらいは、プラスの言葉をかけたい。

 考えられる解決策は思い浮かぶけど、頭と心がチグハグになってしまうよな、というのもあって、あ〜とか、ん〜とか言いながら、目を瞑りながら、結局、なんか、私は役に立てたのかと思いながら、中華料理屋を後にしたのは、ほぼ夜中の12時のことだった。

松坂大輔

 『こんな球打てねえよ』という投手に出会ったことがないのは、私がプロ野球選手になるような人と出会っていないからで、プロ野球選手が投げるボールをバッターボックスで体感したくなった。今更。でも、高校球児のときと、今とでは、たぶん違うだろうし、やはり高校球児のときに体感してみたかったな、と思う。というようなことをプロフェッショナルの流儀、田中将大を観ながら思った。その日の午前中は、『Number PLUS 完全保存版 松坂大輔』を読んでいた。松坂大輔が高校球児だった頃の横浜は、私の中では、歴代最強チームとなっている。横浜とPL学園の延長17回は、伊丹空港で号外を手にして知った。私は、その前日、甲子園球場の観客席にいた。

 

ノムさん

 ONE PIECE101巻を本屋に買いに行った時に、『Number PLUS 野村克也と名将の言葉学。』を購入した。ひさしぶりの野村監督に触れていると、もっと野村監督に触れたくなって、そういえば、自宅の本棚に野村監督コーナーがあったよなあ、と思い出した。もしかしたら、読まないから売っちゃったかもしれない、と久しぶりに野村監督コーナーを見たら、何冊かあって、嬉しくなった。組織を任されている今だからこそ、野村監督の言葉が響いたりするのではないか、と思っている。

 そういえば、先日、会社の1,2年目研修の講師をして、その感想が送られてきた。その感想に、野球の例え話がわかりやすかったですだとか、野球哲学に感銘を受けました、と書かれていて、まったく野球と関係ない仕事なのに、ここまで野球のワードが出てくると、どんな話をしてるんだ?となるよな、と思って愉快になった。ベストを尽くしたので、どう思われようと悔いなし。

 その話を誰かから訊いたかは定かではないが、私の話を訊きたいという人がいるので、ご飯会を調整させて欲しいと連絡があった。何の話を訊きたいのだろう、と返信したら、ざっくり言うとマネジメント論を学びたいようです、と返ってきて、話を訊きたいと言われるのは嬉しいことだな、と思った。どんな質問があるのだろう。

 

 

 

諸行無常

 健康診断で、肝臓の精密検査を要すると判定され、病院に行った。待合室で待っている間、日下慶太『迷子のコピーライター』を開いた。第3章は、著者が病院で入院したことや、家族との話が記されていた。この本は、自叙伝的だな、と思った。その人がどんな人生を歩んできたかを読むのは嫌いではない。特に、社会人になりたてのころの話は。エコー検査は、健康診断よりも、綿密に、精密に行われているようで、時間を要した。暗闇の中、検査を受けながら、いずれ、病気になって、手術が必要になって、痛い想いをするのは嫌だなあ、と考えていた。診察結果は、治療を要することはなく、要観察となった。

 午後から仕事だった。ここ数年、これまでの社会人生活でも稀にみる良い時を過ごしているという自覚があり、これがいつまでも続かないとは思っていたけれど、最近、その時が来ているのをひしひしと感じている。つまりは、下降している。諸行無常、という言葉が頭に浮かぶ。弱りめの時こそ、立ち居振る舞いが大切だと思っていて、気丈に、という言葉を自分に言い聞かせる。

 

 

シーソーゲーム

 コインランドリーで、洗濯物を乾燥機にかけ、蔦屋書店に向かった。大谷翔平特集のNumberを購入することは決めていたが、ぶらぶらとあてもなく、店内を歩いていると、コンシェルジュ文庫というコーナーがあった。日本各地の蔦屋書店の店員が「今の自分を支える本」を紹介するというコーナーで、いくつかの本が気になったのだが、とりあえず、フリーペーパーをもらい、また、店内をぶらぶらと歩いていると、写真展をしているコーナーがあって、日下慶太という人の写真展らしく、そこにあった一冊の本がおもしろい予感があって、日下慶太『迷子のコピーライター』を購入することにした。

 日本シリーズ2021第3戦の前に、お風呂に入り、テイクアウトの焼き鳥を取りに行き、いなり寿司を食べながら観戦した。途中、蔦屋書店で購入した日下慶太『迷子のコピーライター』を開いた。

 物語は、就職前のひとり旅から始まる。通常、紀行文的なものは、好んで読まないのだが、自分の大学時代のひとり旅と重なって、楽しく読めた。そして、物語は就職へ。どちらかというと、私は、どのような働きかたをしてきたかという話が好きである。物語も第3章にはいり、著者が病気になったところで、手を止めた。

 日本シリーズ2021第3戦は、ヤクルトの勝利で終わった。ゲームセットまでどちらが勝つかわからない点の取り合いとなった。昨年、最下位だった両チームによる日本シリーズ。どちらのファンでもないけれど、ここ近年、パ・リーグばかりが勝っているから、バランスを大事にする者としては、久しぶりに、セ・リーグの日本一も見てみたいと思っている。コロナの新規感染者も落ち着いているから、東京ドームも満員のようだった。

 

 

 

ザ・ファブル

 友人から、おすすめのマンガ教えて、と訊かれ、その友人がマンガを読んでるイメージがないから、珍しいなあと思いながら、前にも言ったと思うけど、と前置きし、ONE PIECEと伝えた。俺、ダメだった、と即答したので、腕が伸びるのがダメだった?と訊いた。親戚のおじさんがONE PIECEを読んで、何で腕が伸びるか意味がわからないと言っていたのを思い出したから。その友人がおすすめしたマンガが『ザ・ファブル』。笑わそうとしてないんだけど、笑えるのよ、と言っていた。そうか、笑えるマンガが良いのねと思って、アフロ田中も薦めたが読んでいる気配がない。人に本を薦めるのは難しい。

 マガポケというアプリを携帯にインストールした際に、『ザ・ファブル』が目に入り、無料だし、読んでみようかな、と思って、数話読んだら、私もハマった。友人が言っていた笑えるのよ、という要素がどこにあるかはわからないが、別の意味でおもしろい。そのおもしろさはどこにあるのか。ザ・ファブルのおもしろさは、ハラハラ感にあるのではないか。伝説のというか、都市伝説にもなっている殺し屋集団ファブル。そのファブルの一員であり、天才的殺し屋の佐藤。殺しをしてはいけないという指令を受けるが、トラブルに巻き込まれていく。そのトラブルというのが、ハラハラする。読みながら、ファブル、お願いと期待してしまう。私は、そこがおもしろいと思う。

 なるほど、こういう感じが好きなのね、と新宿スワンを友人に紹介した。私が紹介する前に読み始めたらしく、案の定、友人はハマった。