どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

あんかけ焼きそばエビぬき

 指定された中華料理屋に到着した。中華料理屋は繁盛していて、カウンターにも、テーブル席にも所狭しと、人が座っていた。密といえば密。あんかけ焼きそば、えび抜きで、と私は注文した。油淋鶏と青椒肉絲でお願いします。私が一人で食べるわけではないですよ、と若い職員は店主に返していた。そうこうしていたら、もう一人が、お疲れ様です、と言ったかは定かではないが、たぶん言いながら、私の向かいに座った。

 話を訊きたいって、なかなか言われないから嬉しいよ。で、話って何?と、私は訊いた。

 一言でいえば、上司との関係についての悩みだった。マネジメント論を訊きたいって言ってたけど、それはマネジメントというより、人間関係の話だね。まあ、悩みのほとんどは、人間関係とも言うしね、と訊く姿勢をとった。

 なんで、上司のフォローを、部下である私がしないとならないのか。なぜ、上司は気づいてくれないのか。上司のほうが給料が高いというのに。

 こんなことなら、私が上司になったほうがよっぽど良い、と思ったのは、過去の私でした。若い職員が抱いた怒りは、多分、いつしかの私が抱いた怒り。最近は、怒りというより、悲しいと言った。悲しいのはよくない。まだ怒りのほうが良い、と訊きながら思った。実際、管理職になった私は、世の、中間管理職のお父さんたちは、こんなに苦しい想いをしていたのか、と初めて知った。ダメ上司と思っていた人の顔がどこか凛々しく感じたものだ。

 わからないものなんだよな、人の気持ちって。私もそうだけど。本当のところはわからない。気づけないというか。つい最近の話でいくと、私の部下の一人が、今年度いっぱいで退職したいと申し出てきた。本当のところはわからない。部下が言うように興味関心が変わったと言うのもそうなのだろうけれど、退職理由って一つではない。不満をあげればキリがないと言うように、他にも問題があったのだろう。かなり高い確率で。他の問題に私が気づけていれば、と後悔した。過去を振り返ると、ああ、あそこはサインを発していたのかもしれないだとか、ああ、心合わせをしとけば良かったとか、ああ、また失敗したなあ、とか思う。

 数年ぶりに、マイナスの言葉を浴びていたら、どこか調子が悪くなっている自分がいることに気づいて、マイナスの言葉を浴びるというのは、こういうふうになるのだ、と思った。自分にくらいは、プラスの言葉をかけたい。

 考えられる解決策は思い浮かぶけど、頭と心がチグハグになってしまうよな、というのもあって、あ〜とか、ん〜とか言いながら、目を瞑りながら、結局、なんか、私は役に立てたのかと思いながら、中華料理屋を後にしたのは、ほぼ夜中の12時のことだった。