北の凡

いろいろあるけれど、それでいい

蛸物語

タコを最初に食べた人は、
海で遭難した時だったと思うんだよね。

その人は、腹が減って、腹が減って、もう、どうしようもなくて、
食えるかどうかはわからないけれど、
そんなことは、もうどうでも良い。
食わなければ死ぬ。
そんな時だったと思うんだ。

魚を釣る体力、気力はすでに消耗。
「くそ、もう死んだな」と思いきや、
目の前には、わけのわからない物体。

「なんじゃこりゃあ」と最初は、思ったが、生き物らしい。
食べるしかない。
もう、何だっていいやと、
その何本もある足を引っ張ろうとしたら、
なかなか取れない。
へばりついてやがる。

食べようとした時に、食べれないと、
なおのこと食べたくなる。
それが人の性(さが)。

唇には吸盤が張り付き、
かと思いきや、
毒切りのような黒い液体を顔にかけられ、視界を失う。

男は、それでも戦うことを諦めない。
俺は腹が減って死にそうなんだと、
その足を噛む。

こうして、タコを食べて生き延びた男は、
村へと無事辿り着き、
タコは食べれるんだよ」と、
村人達に伝えた。


現在の日本。
タコは、当たり前のように食卓に並べられる。
食べられるものとして、見ているけれど、
初めて見たら、食べようとも思わないだろう。


タコを最初に食べた人に敬意を表したい。