「一日早いけどできた?」
俺は、数日前、親戚のおばさんに無理を言って、ある品を作ってもらうよう頼んだ。
そして、その品ができているか、確認の電話を入れた。
「あぁ、できてるよ。飯でも一緒に食うか?」
「うん。今日は、お礼に俺が金を出すからさ」
「いや、まだ良い」
まだ、早い。そんな風にも聞こえた。
「まだ、良いって、いつ金を出すタイミングあるん?」
笑いながら、俺は、聞き返した。
会う度、会う度、飯を食わせてもらい、
足りないものはないかと、やれ、洗剤を持って行け、
やれ、絨毯をもっていけと、世話をしてもらっている恩返しだった。
ここは、絶好の機会。
そう思った。
「お前の通帳が、安定してからで良い」
おじさんは、電話口で、そう言い、俺は、いつ安定するんだろう?って、
ふと思いながら、おじさんの家に向かった。
ある品とは、ズボン。
頭の中に浮かんだ、俺が履きたいズボンは売っていそうにもなかった。
なけりゃあ、作ればいい。
作れば良いんだけど、俺には、アイディアがあっても、作る技術はない。
そこで、昔、洋裁学校に通っていたという、おばさんに頼むことにした。
まずもって、生地が売っている店をタウンページで調べ買いに行った。
「このエプロン良いですね。こんな感じなのが良いんだよなぁ」
エプロンを買うつもりで店に来たわけではないんだけど、
つけても良いって言うから、エプロンを腰に巻き、俺は鏡を見た。
「飲食店でも経営してるのかい?」
興奮している俺を見て、微笑みながら、店員のおばさんは言った。
「いえ、してないです」
俺が探している生地は、着物。もしくは着物の柄。
店員のおばさんと話しながら、いろんな生地を見せてもらった。
こうして、生地を選び、自分が着たいと思う服を作るって作業は楽しい。
実際に縫ったりするのは、俺じゃないけど。
俺は、そんなことを考えながら、生地をいろいろ見ては、
店員のおばさんと会話を交わした。
「やっぱり、飲食店を経営してるんでしょ?」
「いや、してないですって」
結局、いろいろ見せてもらったんだけど、
その店には、俺が探しているような生地はなく、
親切に店員のおばさんは、布は、こんなのが良いねだとか、あそこの店に行ってみなさいと教えてくれた。
布を選び、俺は、親戚のおじさんとおばさんの住む家に持って行ったのが数日前。
来週の東北遠征には間に合わせたい、俺は、「ここはおばさんしかいないんすよ」と説得した。
おばさんは、渋々だったけれど、「今回だけだよ」って、了解してくれた。
そのズボンが完成した。
一目見て、「ふむ、こりゃ、傾いてる。想像したとおりだ」って気に入った。
上は、楽雲庵塾Tシャツ、
下は、おばさんに作り直してもらったズボン。
そして、雪駄。
楽雲庵塾名物「100本ノック」前夜。
俺は、この格好で、東北の地で、一人駆けを行う。
*****
←現在、小説・ノンフィクション部門、第7位。いつもクリックしてくれてありがとう。
人気ブログランキング
↑こちらにもクリックをお願いします。激しく変動中。最近、下降中。