どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

WBC準決勝日本vsメキシコ

 すごい、すごい。テレビの前で涙を流しながら私は何度も呟いた。吉田正尚が同点となるホームランを打ち、ベース上を回る。涙が乾かぬうちに2点リードされ、8回裏に1点差に迫った。9回裏。先頭、大谷がツーベースヒット。大谷がベース上で雄叫びをあげる。吉田正尚がフォアボールで1、2塁。吉田正尚の代走で周東。延長を考えていないんだと思った。村上が打った瞬間に、外野を超えたと思った。周東がホームベース上でスライディングをしたと同時に、選手たちは、ホームベース上に走る。私はテレビの前で両手を突き上げ、雄叫びを上げ、涙を流した。大谷の存在が漫画みたいとよく評されるが、WBC準決勝日本vsメキシコも漫画のようだった。野球の試合で、ここまで泣いたのは初めてかもしれない。

最高です

 ホテルのベッド上で伊野尾書店で買ったNumberを開いた。WBC特集。WBC第一回大会が開催されたのが2006年。野球の国際大会が開催されると知った時は、それは、それは嬉しかった。小学生の頃、もし、野球の国際大会が開催されるとしたら、と、一人、夢想しながら、ノートに綴った。考えるだけで楽しかった。

 それが現実のものとなった2006年、私は、社会人になっていた。仕事どころではなかった。しかも、記念すべき第一回大会で、世界一に輝く。私は、自宅のアパートで一人、ビールかけをおこなった。今大会出場している大谷や吉田正尚は、小学生や中学生で、WBCを観て、自分たちも、日本代表に憧れたと、Numberに書かれていた。一野球ファンとしても嬉しい言葉で、今、WBCを観ている小学生や中学生にも確実に受け継がれていくだろう。

 準々決勝の試合開始は19時だったけど、Numberを鞄に入れ、3時間前に東京ドームに着いた。東京ドームは人で溢れかえっていた。球場に入り、カレーと焼きそばを買って、三塁側外野席にほど近い内野席に座り、イタリア代表のバッティング練習を観ながら、Numberの続きを読み、試合開始を待った。

 大谷がグランドに登場する。球場がどよめく。センターまでゆっくりと歩いた大谷は、歓声の中、ウォーミングアップをする。ここまで注目される中で、プレーをするのは、どんな気持ちなのだろう。私は、高校球児だった頃を思い出していた。バッターボックスに立つと、足が震えた。

 試合前のセレモニーが始まる頃には、私の周りの席も埋まった。国歌斉唱を致しますので、観客の皆様は、ご脱帽の上、ご起立ください、というアナウンスが流れる頃に、お腹が痛くなった。隣にいる人に、すみません、出ます、と言いづらくて、お腹が痛いのを我慢した。試合序盤も、何度となく、トイレに行きたい波が押し寄せるが、トイレに行くタイミングが見当たらない。もう、無理だ、大丈夫を繰り返した3回裏。近藤健介が四球で出塁すると、3番大谷が、セフティーバント。えっ、と声が出たかは定かではないが、一瞬、球場が静寂に包まれた。観客の私が、そうであるなら、プレーしているイタリア選手も意表をつかれただろう。一塁に悪送球。大谷という一選手が試合を支配しているようだった。ここから試合が動き出す。続く、4番吉田正尚の内野ゴロの間に1点先制し、6番岡本が打った打球は、ゆっくりとした放物線を描く。私は、その放物線につられて立ち上がり、レフトスタンドにボールが飛び込んだか飛ぶこまないかで、両手を突き上げ、雄叫びを上げた。ワンストライクごとに拍手をし、点数が入るたびに立ち上がり、拍手を送る。いつしか、私のお腹の痛さはおさまっていた。岡本はヒーローインタビューで最高です、と繰り返した。

 

 

価値観をおしつけないでください。

 友達と飲んできました。その時の話です。会話の中で「じゃあ早くやればいいじゃん!いつも口ばっかりで何も挑戦してないよね!」と女が男を激励したんです。聞いたことのない声の震わせ方で。聞いたことのない語気の荒げ方で。もう、その言い方が独善の権化のようで。女の方は考えるよりも先に足が動くタイプで、わかりやすい挑戦心を全面に出す点は尊敬できるのですが、それこそが、思考よりも挑戦することこそが正義であると言わんばかりに言葉をぶつけていて。これを言うことが相手のためになるに違いなたいというマスターベーションにすら見えてしまう光景であり、相手の美学や流儀を省みたいままに議論を吹っ掛ける浅ましさ、よく喋るタイプのコミュニケーション障害もあるんだろうなと思ってしまうほど破綻した対話に、その女の方と今後は距離を取ろうと思ってしまった訳です。大好きな友達だったんですけどね。『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』p40

 『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』のこの部分を読んでから、自分には、そんなところはないか、私の考えを部下に伝えている時点で、価値観の押しつけになっているのか、私の考えを伝えなければ、それはそれで不具合が生じるよなと、頭の中で、右往左往している時に、私の部下が業務日誌に、研修を受講した感想を書いていた。

 講師の人の話し方が、考える余地があって聞きやすかった、もっと聞いていたいと思ったと言うことだった。そう感じるポイントはどこにあったのだろうか。わからない。わからないが、価値観の押しつけにならないよう、部下が持ってきたマンダラチャートを見ながら、アドバイスを下さいとのことだったので、受け取ると伝えるを分けて作ったほうが良いよだったり、なぜこのテーマに設定したの?どういうところがうまく受け取れていないと思っているの?と、話を聞きながら、その部下の良さが良さのままに活かされるように考える。

 最近、その部下と話をしていて、この部下は天才肌だと感じた。そのこだわりは、イチローみたいだと思った。イチローも、野茂も、打ち方や投げ方が、人と違った。のちに、その打ち方は、振り子打法と呼ばれ、その投げ方はトルネード投法と呼ばれた。奇しくも、イチローも、野茂も仰木監督の下でプレーをしている。仰木監督だったからなのか、仰木監督ではなくても、イチローイチローとなり、野茂は野茂のまま活躍できたのか。私も、そんな天才肌を活かせるような人でありたい。

WBC2023日本vs韓国

 大洋ホエールズのユニホームみたいだなあ、と韓国代表の面々をみる。国際試合の緊張感は、かくれんぼをしている時に、鬼が近くに来て、その緊張感に耐えられなくなって、自ら鬼の前に出てしまう感覚に近い。観ているほうが、この緊張感なのだから、監督、選手は、どれほどのものだろうか。そういえば、栗山監督は、サッカーワールドカップを観ながら、吐きそうになったと言っていた。原監督は、WBCの試合前に初めて胃薬を飲んだと言っていた。選手が言う楽しみたい、という言葉は、自分自身を保つために、自分自身に言い聞かせる言葉か。もちろん、私も世界一を願ってはいるが、ダルビッシュ有が、このチームで一試合でも長く試合をしていたい言うように、私も一日も長く、この侍ジャパンを観ていたい。鈴木誠也が怪我で欠場したのを引きずっていたが、2番近藤は、今の侍ジャパンには、なくてはならない存在となった。13−4で日本が韓国に勝利。

WBC 2023日本vs中国

 早く帰りたいと思っている時ほど、何か仕事が舞い込んでくることはよくあるが、その日は、そんなことはなく、帰宅の途に着く。運転している最中に、職場の車両に携帯電話が入っている鞄を忘れたことに気づき、携帯電話が手元にない不安や、休日に、わざわざ職場に鞄を取りに行くめんどくささはあれど、中国戦に間に合わないということで、そのまま自宅に入り、テレビをつける。国際試合の緊張感がたまらない。先発は大谷。3番大谷。大谷のプレーを観られることが幸せすぎる。山田哲人のタイムリーで手をたたき喜ぶ。8−1で日本の勝利。

 

10年

 昨日も、コメダ、今日も、コメダで一日を始めている。職場がコメダのようだ。ウェイトレスは、水をテーブルに置きながら、この人、また来た。働いていないのだろうか、と、私を見ているかもしれない。私は、メニューも開かず、アイスコーヒーたっぷり、甘み入りで。トースト、おぐらあん、バターで、と、今日も、昨日と同じメニューを伝える。ウェイトレスが去り、スポーツ新聞を読み始める。一面は、本日から始まるWBCのことで、今日、先発の大谷のことが書かれていた。「日本ハム時代、投打の二刀流として栗山監督と歩み、5年後にメジャーに羽ばたいた。10年後の時を経て再び、当時の恩師と同じ目標に向かって駆け抜ける(日刊スポーツ)」。ちょうど10年だからなのか、10年しか経っていないのに、こんなにすごい選手になったからなのか、10年かあ、としみじみと記事を読む。3月の予定は、WBCを中心に組んでいる。19時以降に試合がある日は仕事を入れているが、日中帯に試合が行われる準決勝、決勝は、仕事を休む。

 3月は、毎年のことであるが、次年度に向けた動きがあるので忙しい。普段よりも頭を回転させているからなのか、夜中に目が覚めて、考えようともしていないのに、仕事のあれこれを考え出し、余裕で再び、眠りにつける時間だったのにもかかわらず、目がさえ、そのまま職場に行った。頭が回転しないなあと思いながら、夜の会議に参加していた。もしかしたら、周りには不機嫌に見えたかも知れない。道路脇の雪が、汚れながら、溶けていく。

やめたほうが良いよ、と彼女は言った

 色とりどりの靴下を眺め、手に取りながら、私の頭の中では、20代の一場面が自動再生された。

 たまたま乗ったバスに職場の同年代の女性が乗っていて、その女性の隣の席に私は座り、世間話をしていたのだが、私の靴下を見て、なんで白なの?と言った。白なんてダサいよ、という言外の意が込められていた。私は、高校生の時から、靴下はほぼ白で、なんで白がダサいのだろう、とわからなかった。私の身なり、言動を直した方が良いと言ってくれる女性というのは、そう出会わない。なぜか、時々、思い出す思い出で、私は、その風景を嫌な思い出や恥ずかしい思い出として思い出すのではなく、どちらかというと、微笑ましい思い出として、思い出す。

 その女性から、数年ぶりにLINEで連絡が来た。仙台育英高校野球部の須江航監督を特集していたテレビ番組が良かったとのことだった。野球を見ると、時々、私を思い出してくれるようだった。そのテレビ番組の見逃し配信を探したが、見つからなかった。

 先日、たまたまWBCの特集をされている雑誌を買いに蔦屋書店に行ったら、須江航監督の著書が置かれていて買って帰ってきた。

 人が生きて生きていくうえで絶対に欠かせない、目標を達成するための思考法や、物事を本質から理解して判断する能力(一言で言えば「知性」)、自己を律して自己を確立し、問題と向き合う能力を身に付けることが、高校野球に取り組む目的だと考えています。須江航『仙台育英日本一からの招待』p25

 チームのスローガンやモットーを言葉にすることにこだわりがあり、「言葉によってチームの方向性が決まる」と思っています。須江航『仙台育英日本一からの招待』p46

 チームづくりは文化づくり 須江航『仙台育英日本一からの招待』p136 

   時を守り、場を清め、礼を正す 須江航『仙台育英日本一からの招待』p137

   読みながら、私の組織運営にもあてはまるという言葉があった。これを高校生がやっているのか、と。これが、日本一になるチーム運営なのか、と。

 道路が顔を出し、道路脇の雪が汚れている。もう少しで春だ。今年は、WBCで球春が到来する。