帰宅時間の列車に乗っていると、向かい側の席に中学生2人が座った。
1人は席に着いたとほぼ同時にカバンだけ置いて、トイレに向かったのか席を立ち、もう1人のメガネをかけた細身の小柄な青年は、何か考え事をしているのか、自分の世界に入っているようだった。
おもむろに、その青年は右手を胸の前で振り出す。
それが指揮者がする指揮だというのは、すぐにわかった。
そうか、学校祭の時期なんだな。ということは、君が指揮者なのか?
何度も最初の方を繰り返しているようだ。1,2,3,4,1,2,3,4。
まさか、その指揮は私に向けられているのか。何度も最初の方を繰り返しているのを見て、そんな気がしてきた。
私は心の中でタイミングを計る。1,2,3,4,1,2,3,4。
中学生の時の課題曲、野生の馬を思い浮かべる。
君たちの課題曲はなんなんだい?心の中で、その青年に問いかける。
13歳。何年生の時の課題曲かは忘れたが、中学生の時の記憶は、まだまだ鮮明に残っている。そんな昔でもないような気がするんだけどなあ、と、列車を降りながら心の中で呟く。
北海道は、もはや初冬。