河童はおそる、おそる俺の前に立った。
俺よりも身長が低かった。
「昨日は、溺れているところを助けてくれてありがとう」
用意していた言葉を言った。
河童はよくわからないというふうに首をかしげた。
河童は人間じゃないから、
言葉が通じないんだということがわかり、
身振り、手振りで、お礼を伝え、
ビニール袋に入っていたきゅうりを差し出した。
河童はキュウリに手を伸ばし匂いを嗅いだ。
食べ物だということがわかったのか、
口にきゅうりを運んだ。
一口食べて、すごい喜んでいるのが俺にもわかった。
河童は、俺に握手を求めてきた。
おまえは、良い奴だと言わんばかりだった。
やっぱり河童はキュウリが好きだったんだ。
キュウリを食べ終えた河童は、
俺の手をとり、
川に連れて行こうとした。
「いや、いや、俺、あきらめたんだ。泳ぐの」と慌てながら、身振りを交えて話した。
河童は、これを使えば大丈夫だと、
背中にしょっていた亀の甲羅のようなものを俺に渡した。
見た目ほど亀の甲羅は重くなかった。
片手でも余裕で持つことができた。
ただ渡されたはいいけれど、
何に使うものなのかはわからなかった。
河童は、こう使うんだと、
先に川に入り、亀の甲羅を使いながら泳いだ。
亀の甲羅をビーチ板のように使い、
時には救命胴衣みたいに使った。
これなら俺でも使えるなと思ったのと、
川で転んで、全身、べちょ、べちょだったから、
もう、服を着たまま川にはいっちゃえという開放感で、
亀の甲羅を借りて、川に入った。
俺のとなりに泳いできた河童は、
こう泳ぐんだと教えるように、
平泳ぎをした。
俺もそれを真似た。
そうやって、しばらく泳いだ後、
河童と二人で川から出た。
ちょっと疲れたから、
草むらで横になった。
河童も俺の横に来て、
寝そべった。
空を見た。
青空には入道雲。
夏真っ盛りって感じで、
時折、心地良い風が吹いた。
河童が、そうだと上体を起こし立ち上がった。
俺に手招きをし、
両手を地面についた。
相撲?
どうも、河童は、俺と相撲をとりたいようだった。
何かよくわからないけれど、
俺も両手を地面についた。
河童が俺につっこんでくる。
やっぱり相撲だ。
河童の体はぬるぬるした。
俺は大外刈りで、河童に勝った。
思いのほか、河童は弱かった。
すぐ、もう一回と言わんばかりに、
両手を地面についた。
そして、あっけなく、俺は、また勝った。
もう一回。
また、俺の勝ち。
河童は、もう一回、もう一回と、
何度も相撲をとりたがった。
相撲を取る度に俺が勝った。
河童は、思いのほか、弱かった。
日が沈みかけてきた頃、
夕飯までに家に帰らないとかあちゃんに怒られるだろうなと頭を過ぎり、
河童にまた明日くるから、
明日、またやろうと伝え、
やっと相撲が終わった。
河童にお礼を言えてすっきりしたのと、
河童と遊ぶことができたことが嬉しくて、
何度も、何度も、その一日を振り返って、
自転車をこぎながら家路についた。
※この物語はフィクションです。
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