北の凡

いろいろあるけれど、それでいい

父が好きな食べ物を知らない。

小学生の頃、家族全員でラーメンの自動販売機で、ラーメンを食べて、4人中3人がお腹を壊したのに、父だけがお腹を壊さなかったことだったり、父が、腐った数の子を、腐っていると気付かずに食べていたことだったり、父と食べ物のことを思い出すと、いくつかの思い出を思い出すことができるけど、父の好きだったものって何だろうと考えると、わからない。

 

そんなことを、あつあつを召し上がれという小説を読んだあとに考えていた。

あつあつを召し上がれ (新潮文庫)

あつあつを召し上がれ (新潮文庫)

 

あつあつを召し上がれは、7つの短編が収められていて、その1つに、きりたんぽが好きな、お父さんの物語がある。

 

亡くなったお父さんの四十九日に、お母さんと娘の2人で、お父さんが好きだった、きりたんぽを作るという話。

 

生前のお父さんは、自分では作らないくせに、きりたんぽの作り方についてうるさかった。きりたんぽを作る際のご飯の潰し方だったり、野菜の切り方までに指示が飛ぶ。

 

お母さんは、生きた心地がしなかったと言う。娘は、お父さん、わが家のお殿様だもんと、お父さんを思い出しながら言った。

 

お母さんはこう返す。「そうよね、お父さん、家の中くらいしか威張れる場所がなかったんだから」

 

お父さんは、正義感が強く、人に優しすぎた。出世街道からは大きく外れ、定時に家に帰って来て、家族と食卓を囲むのが、人生最大の喜びとしていた。

 

お母さんは、そんなお父さんを、何も知らないようなとぼけた顔をして、いつも温かい湯気で迎え入れた。

 

この本で一番、好きな箇所。

 

食べ物を絡めた小説は、今まで何冊か読んだけど、どこか、ほんのりと温かい物語が多い。