毎日、毎日、同じ道を歩くことが、どうして楽しかったんだろうか?
モチダさんの息子さんの家に向かう途中、
そんなことを考えた。
確かに、健康のためでもあった。
モチダさんと一緒に散歩をしている時に、
歩くことがいかに、健康に良いかを聞いた。
ただ、健康のためだけなら、
あそこまで、毎日、毎日は続かないだろう。
帽子に花をつけ、楽しそうに歩いていた。
モチダさんが、何度も、何度も歩いたであろう道を、
俺は、モチダさんの息子さんからもらった手紙が入った封筒を片手に家を探した。
途中、洗車している人に、モチダさんの家をたずね、
俺は、モチダさんの息子さんの家にたどり着いた。
玄関先には、待ってくれていたのか、モチダさんの息子さんがいた。
一目見て、息子さんだとわかった。
どこか、モチダさんに似ている。
モチダさんは100歳で他界した。
息子さんは80歳近いのだろう。
家に入って、モチダさんの仏壇の前で、
線香を上げさせてもらい、手を合わせた。
それから、モチダさんの息子さんと息子さんの奥さんと俺の三人で、
モチダさんの思い出を話した。
俺が言うまでもなく、
いろんな人が、モチダさんを気にかけていたことを二人は知っていた。
近所の小学生達も、「花のおじいちゃん」と呼んでいたらしい。
俺がモチダさんに会っていたのは、
朝だったんだけど、昼くらいになると、
家に戻り、食事をして、昼寝をし、
再び、散歩に出かけていたらしい。
モチダさんは、花が大好きだったということも聞いた。
俺がモチダさんに出逢った三年前のこと、
モチダさんと一緒に散歩をしたこと、
写真を撮らせてもらって、作品をつくったこと、
そしてアルバムを贈ったことを話した。
モチダさんの息子さんは、
アルバムに入った写真の一枚をコピーし、
お世話になった人に贈り、
みんな喜んでいたと教えてくれた。
「書道をするのも好きだったんですよ」
そう言い、いくつもの半紙を息子さんが見せてくれた。
俺は、その中の二枚の半紙に書かれている言葉を心の中で読んだ。
”自分の足で歩けることは、こんなに楽しいことだったんですね”
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歩くということ(1)
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