「想像以上にきたねぇな」と、俺の家にあがって、友達が発した第一声。
「地震のせいだ」と、俺は用意していたセリフをはく。
「地震と関係ないだろ?」と言いながら、友達は、風呂場を眺める。
「いや、地震のせいだ。今日は、目をつぶって、我慢して入れよ」と俺は答え、部屋の戸に手をかける。
友達は、すでに服を脱ぎ始めていた。
地震後、俺の家は、電気も水も通常通りに戻った。
たまたま、オール電化で、ガスが復旧していなくても、俺の家は問題ない。
お湯が出る。
そんな仕組みがオール電化。
オール電化という響きは、洒落てるけれど、
「使い勝手が悪いなぁ」と思って過ごしていた今のアパート。
ここに来て、オール電化の力が発揮されている。
その友達の家は、ガスが復旧していないから、温かい風呂には入れない。
しかも、地震後、汗だくで働いて、休みなし。
「いや〜、気持ち良かったよ。ドライヤーを貸してくれ」と、
持参したバスタオルで、頭を拭きながら、部屋に入ってきた。
「ドライヤーなんてねぇよ」
「まぁ、いいや」と、友達は床に座る。
「コーヒーでも飲めよ」
先日、母から送られてきた、コーヒーが入っているビニール袋を渡した。
友達の家の様子や、友達の友達の様子を聞き、
いつのまにやら、俺の個展の話になり、
思いのほか、興味を示す。
塾宝指定作品に書かれているメッセージを眺める。
「おまえ、塾長って、呼ばれてるのか?いいなぁ。いいなぁ」と、妙に羨ましがる。
「ああ。そういう設定だからね」
「俺を筆頭にしてくれ」
真剣な顔で俺に聞くもんだから、俺は、どう答えて良いかも困ったんだけど、
塾生を名乗るのも、自称であれば、筆頭を名乗るのも、また自称。
4年目を迎えるから、こいつは、楽雲庵塾4号生筆頭。
何回か、楽雲庵塾を読んでいる人は、ご存知だと思うが、
俺は、「楽雲庵塾塾長、楽雲庵」という名のもと活動をしている。
ここのところ、楽雲庵塾をきっかけに出逢う人達に、
「楽さん」とか、「塾長」と呼ばれるのが、なんか嬉しい。
個展中も、親しみを込めて、「塾長!塾長!」と呼んでくれたのが嬉しかった。
何人かに、「何で塾長なんですか?」って、質問もされて、
「ただ、塾長って、呼ばれたかったんすよ」と、
単純すぎるくらい単純な俺の答えを聞き、
聞いた人達は笑っていた。
「塾長・・・。ただ、呼んでみたかっただけ」
とりあえず、ここを目指していきたい。
「じゃあ、そろそろ仕事に行ってくるわ。また、今度来た時にでも、個展の写真を見せてくれよ」と、小1時間ばかりの時間を過ごし、友達は立ち上がった。
「気にしないで風呂に入りに来いよ。気を遣わないように、俺も、風呂は洗わないでおくからよ」
「あぁ、気にしないで入りにくるよ」
良い機会だから、今度、4号生筆頭が、風呂に入りに来る前に、掃除でもしておくか。