どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

商売上手ね

 文学フリマ東京は開場から2時間が経過し、ブースに立つ友人からの連絡がないということは、2時間経過しても1冊も売れていないことが想像でき、私の代わりに心が折れているのではないだろうか、と心配になった。

 私は、買い物を済ませ、ラーメンを食べて、ああ、楽しかった、と最早、出店者ではなく、来場者として、文学フリマ東京を満喫して、そろそろブースに戻ろうかなという頃合いに、友人から連絡が来て、足早にブースに戻った。

 本日、記念すべき一冊目が売れた。友人は、やっぱり、あなたが売るのが一番良いと言っていて、心折れたでしょ?と私が訊いたら、楽しかった、と言っていたので、良かった。こんにちわーって1000回くらい言った、と友人は笑った。

 ほどなくして、学生だろう女の子がブースに来て、葛西由香さんのポストカードを手に取って、一枚一枚、丁寧に眺め、この絵が好きです、どこが好き?指がほんのり赤くなっているところ。父も絵を描いていて、とポツリ、ポツリと会話を交わした。あまりお金がないから、と静かに言い、一枚、ポストカードを買ってくれた。小遣いで入場料を払い、吟味して買い物してくれたかもしれなくて、その後も、その場面を何度か思い出して、ほんのり温かい気持ちになった。私は、そのポストカードの、その後の物語を想像した。

 葛西由香さんの絵だったり、ワビサビさんのロゴだったり、コータさんのFabだったり、今回、『にゃあ』を制作する過程で協力していただいた作品の話に、時々なることがよくあって、良いですよねえ、と私も感想を述べるのだが、それは私の作品の一部だったりするので、なんか自画自賛しているような感じになっちゃっているなとも思うのだが、自分の売っているものを、自分が好きだという感覚は大切なような気がする。

 斜め前のブースの女性も、ポストカードが気になって、と訪れてくれた一人で、そこから私はFabを手渡し、友人が作ってくれた名刺代わりのZINEです、といつもの一連の説明をし、後ろのQRコードは、私とは関係がありません、友人の知り合いの美容室のQRコードです、と言ったところで、大抵の人は笑い、中には、それじゃあ、ダメでしょ、とツッコミを入れられ、その女性も笑みを浮かべ、広告ね、と言って、そこから『にゃあ』の説明に入った。こう書いていて、これまで自分の作品の説明が難しすぎると思っていたが、Fabだとスムーズに説明できるのはなぜだろう。『にゃあ』の説明をし続けていたら、圧倒されたのか、そこまで言うなら買うわ、と苦笑いを浮かべ、買ってくれた。自分の作品の説明をするのが苦手です、とも言っていらない。

 『にゃあ』は、いつもの3冊まで売れて、今日も3冊売った、とほっと胸を撫で下ろし、帰っても良いな、とスイッチが切れたような顔で椅子に座って、来場者を、ただただ眺めていたのだが、いや、いや、いや、今日は新記録を更新したいと意気込んでいたではないか、と再び立ち上がり、Fabを配って、ラストスパート、と自分自身に発破をかけた。 

 そこから、さらに3冊売れて、『にゃあ』を購入していただいた方に『FOREVER READING』を薦めると、セットで購入してくれた。会場限定セット割で110円引き。あなた、商売上手ね、と言われることもあった。商売上手ね、その言葉は、前回、ZINEフェス札幌で隣のブースで販売していたニャントラさんが、かけられていた言葉だった。一言で言うと、ニャントラさんをパクったのだった。見事に成功した。

 ニャントラさんは、文学フリマ札幌が初めてで、ZINEフェス札幌が2回目で、文学フリマ東京にも出店するとのことだった。私と全く同じだった。会場で、ニャントラさんを発見した時は、安堵感のようなものが流れた。最早、戦友のような感覚になっていた。なるほど、これもイベントに参加する楽しみなのか。

 

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