どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

エンドロール2022

 その年、最後の日に、特におすすめしたい本を書いているが、今年は該当なし。というか、あまり本を読まない年だった。インプットも少ないからか、ブログの更新も少ない年となった。

 そんな最後の日に読んでいるのが、堀静香『せいいっぱいの悪口』。

 電車のホームの先頭に立っていると、緊張する。もしも誰かに突き落とされたら。いや、そんなことされなくても、ふっとなんの感情もなく吸い込まれてしまいそうになって、我に返って後ろを気にしながら後ろに下がる。堀静香『せいいっぱいの悪口』p56

 特急列車が勢いよくホームに入ってくる時や、地下鉄でホームで先頭に立っている時に、私も同じような感覚になることを思い出しながら読む。駅のホームには全て壁を作れば良いのにと思う。結構前から思っている。

 絶対にやりたくないはずなのに、なぜかそのことを想像してうっとりしてしまうことがある。駅のトイレの、清潔とは言い難い洗面台のカーブに沿ってゆっくりと舌を這わせること、びちびちと音を立てる鍋のなかの天ぷら油をひと息に飲み干すこと。・・・それぞれがそれぞれのゆたかな時間を過ごすコメダ珈琲で、向かいに座る友人に向かって、無表情のまま今着ているVネックのセーターの切れ目からおもむろに自分の乳を取り出したら。友人は驚くだろう。たぶん驚くだけでは済まない。それは社会的な死、を意味するかもしれない。堀静香『せいいっぱいの悪口』p56-57

 私と同じ人がいた、と思った。高校生の時。全校集会で、私は、いや、私たちは、体育座りをし、暇な時間を過ごしていた。ふと、斜め前を見ると、眠っている人がいて、私は、その人の頭を叩きたい衝動に駆られた。その人は、同級生に変わりはないが、友達でもなんでもない。ただ、隣のクラスというだけの間柄。今となっては、名前すら思い出せない。記憶が定かではないが、私はプリントを丸め、力一杯、その人の頭を叩いた。叩いてしまったという表現の方が正しい。今となっては。眠っていたその人は、ハッとした顔で起きて、周りを見渡す。私は、すました顔をする。行動に起こしてしまったのは、あの時だけだ。

 紅白は白組が勝った。私は、これからゆく年、くる年を見ながら、堀静香『せいいっぱいの悪口』を読む。