どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

肉は肉屋

 東京オリンピックの野球日本代表が金メダルを獲得した翌日の朝、私は、コンビニで二紙のスポーツ新聞を手にし、レジに並んでいた。店内には、私以外に、おじさんが2人、同じようにスポーツ新聞を手にして並んでいた。舞台裏を知りたいというのもあるし、喜びの余韻にひたりたい。多分、そんな気持ちで、スポーツ新聞を買う。サッカーが好きな私の職場の部下も、サッカー日本代表の試合のあった翌日は、スポーツ新聞を買っていると言っていた。

 自宅に着き、野球日本代表の記事を隅々まで読んだ。そこには、ネットには書いていなかったプレミア12で、日本と台湾を往復した機内の席割りで、選手はビジネスクラス。稲葉監督ら首脳陣はエコノミーで、「オレたちは良いから」と稲葉監督が言ったという記事があって、ビジネスクラスとエコノミーって、どっちが良い席なのだろう、とピンとこなかったけれど、文脈からして、エコノミーは、通常、私が座っているような席のことだと思って、「オレたちは良いから」と言いながら、エコノミーの席に座る稲葉監督が目に浮かび、この人のために、と選手は思っただろうな、と思った。稲葉監督の言葉で印象深いのは、いい選手を選ぶのではなく、いいチームになるように選んだ、という言葉。以前にもどこかで訊いて、良い言葉だな、と思っている。選手起用を見ていても伝わってくる。Numberとかで、侍ジャパンの特集を組んでくれないだろうか。もっともっと、余韻に浸っていたい。

 

 日本対アメリカの試合の合間、母に、ばあちゃんちに斧がないかな?とメールした。珍しく、電話がかかってきて、斧を何と読むかわからなくて、父と2人で調べたという。まさかりで良いのか?と言われ、まさかりでも良いけど、おのだね、と答えた。マサカリと言われると、マサカリ投法村田兆治を思い出す。どうでも良い話だけど。

 親戚のおじさんに訊いてみると母は言って、電話を切って、すぐに、また電話がかかってきて、2〜3種類の斧があると言っていた、と母が言った。やっぱり、と心躍った。片手で使う斧、と答えた。何に使うのよ?とおじさんが言っていたよ、と母は言ったが、薪を割る以外に、斧の使い道があるのだろうか。

 薪を割るためにナイフを買おうと思っていたが、先日、会社の同僚とデイキャンプに行った時、薪は斧だな、と思った。鉈とも迷って、ネットで調べたが、薪は斧を使いたいと思った。思ってメルカリで探した。

 斧を買う前に、薪を500円で買い、斧を買うためにキャンプ用品店に行った。思いのほか、斧の値段は高く、薪を割る以外に使い道がないのに、この値段は出せないな、とあきらめていたところ、ばあちゃんちに使われなくなった斧があるのではないか、と頭をよぎった。ばあちゃんちでは、長いこと薪ストーブを使用していたから。

 そんなわけで、斧は、近々、ばあちゃんちにもらいに行くことにし、割らなくても良さそうな小さな薪を選び、大きい薪は自宅アパートに並べた。

 自宅アパートから歩いてすぐのところに、趣味で野菜を作っているおじさんが、営業中という白い文字の赤いのぼりを立てて、野菜を売っていた。私は、その直売所に初めて買いに行った。ミニトマトと、きゅうりと、ししとうを買った。トマトをおまけでつけてくれた。スーパーで買うよりも安いし、国産だし、新鮮だし、直売所で買うにこしたことはないな、と思った。

 肉もできれば、精肉店で買いたいと思って、私が住む街の精肉店に向かったが、定休日だった。自宅に帰って来てGoogle マップで調べ、キャンプ場に向かう途中で寄ることにした。

 昭和の時代からやっているだろう、その精肉店に入ると、肉が並んでいなくて、もしかしたら休みからもしれないな、と思ったら、奥からおばさんが出てきた。これからキャンプに行くので、肉屋の肉を、一度食べてみたいと思って寄ったと伝えた。おばさんは、肉屋の肉はおいしいからと言った。跡取りがいないから、今年、いっぱいで店を閉めようか、夫と話していると言っていた。訊くところによると、何代か続いた精肉店で、こういう店がなくなるのは、もったいないと思ったので、もったいないですね、と私は言った。確かに値段は、スーパーで買う3倍ほどだったが、そこは値段ではなく、肉屋の肉が食べたかった。

 今年、デイキャンプは3度ほどしたが、こうして泊まるのは、今年、初めてで、今年、購入した車中泊で使用するためのマットだったり、車に取り付ける網戸だったり、ランタンだったり、使い勝手を試す機会であり、いずれも思った通りの働きをしてくれて、満足だった。実際に、キャンプをしてみると、灰をすくうシャベルのようなものが欲しいな、と新たなことにも気づく。

 キャンプをする目的でもなければこなかったであろう小さな町。私が生まれ、育ったのも同じような町だ。年を重ねたせいか、こういう町の良さがわかる。