脳卒中(脳血管疾患)は日本人の死因の第4位であり、総患者数は、約137万人。毎年約13万人が死に至り、生存患者が後遺症に苦しんでいる。
この本は、脳卒中により生死の境から生還した、患者さんたちとその家族の、絶望と再生の物語である。3編が収められている。
私は、この本を読みながら、何人かの顔が思い浮かんだ。
その一人が、長嶋茂雄読売巨人軍終身名誉監督。私の好きな野球選手の一人である。ご存知のとおり、長嶋さんは脳卒中で倒れ、現在も、後遺症が残っている。
「長嶋さんのすごいところは、後遺症が残っている状態でもテレビに出てきたところだと思う」
私は、いつしか聞いた言葉を思い出した。
本書に書いてあったが、脳卒中を患って後遺症が残ると、移動の不自由さもさることながら、変わりはてた姿を衆目に晒す精神的苦痛で、ひきこもりになってしまう人も多いという。
変わり果てた姿を晒したくないと思うのは、国民的スターの方だとなおさらではないかと思う。長嶋さんが、どんな過程を経て、現在に至ったのだろうかと想像した。
もう一人は、以前、働いていた会社にいた事務の人。50代の男性だった。名前も覚えていないし、会話も、挨拶程度しか交わしたことがない。本書に登場する脳卒中の後遺症で片麻痺になってしまった人と、どこか重なった。
毎日、職場で大勢に囲まれながらも、彼は孤独だった。初めて飲み会の誘いがあったとき、彼は参加してみようと会費を納めた。だが、会場へ行ってみると、店内には座敷しかなく、彼は正座も安座もできないため、困った末に帰らざるを得なかった。・・・昼食時は、いつも独りで弁当を遣った。隣の席の若い女性社員とは、業務に関すること以外、なにも話さなかった。朝、「おはようございます」、夕「おつかれさまでした」、その2つの挨拶しか交わさなかった。(「片翼チャンピオン」平山譲)
あの人は、どんな気持ちで仕事をしていたのだろうか?想像すらしていなかった。
この本は、いわた書店の一万円選書で選んでもらった1冊なんだけど、選んでもらった本は、自然と、どこかに店主のメッセージが込められているのではないかと思って読む。
「最後の最後まで、あきらめるんじゃねえ」(「片翼チャンピオン」平山譲)
この言葉に出会った時に、たぶん、これなんだろうな、と思った。
店主が伝えたいメッセージというより、自分が誰かに言って欲しい言葉なのだろうか。何に対して、あきらめるんじゃねえ、と自分自身に言っているのだろう。
それ以外にも、いいなと思った言葉をメモ。
生きるには、生きがいと呼べる、未来につながるなにかが必要(「片翼チャンピオン」平山譲)
どれだけ努力してみても、自らの力ではどうにもできない現実に直面することが人にはある。ときに人生は、あまりに不条理で、残酷で、無意味で、無価値なように思える。(「片翼チャンピオン」平山譲)
この本には3編収まっているんだけど、私は、最後の「ハッピーバースデー、俺」が好き。
バスケットの監督をしている最中に、脳卒中で倒れてしまった還暦を過ぎた男性の物語なんだけど、良いよ。久しぶりに本を読みながら、うるっときた。