北の凡

いろいろあるけれど、それでいい

10.19

今年の暑い夏が嘘だったかのように、
北の大地は、やっぱり北の大地だった。
寒い。寒くて、ここのところストーブがかかせない。

毎年のことだが、ストーブをつけると、
どうも眠気が襲ってどうしようもない。
その日も、気づいたら寝ていた。

何時間、寝たのかもわからない。
いや、携帯電話が鳴るその時も、まだ寝ていた。

携帯電話は、大抵、バイブレーションにしているから、
気づかなくても、至極、当然なのだけれども、たまたま起きた。

着信を見ると、野球好きのブラックスからだった。

ここのところ、ブラックスから連絡がないな、
ブラックスは元気だろうか、
今年は、「野球観に行こうよ」と言ってこなかったなと思っていたところこだったから電話に出た。
眠かったけれど。

「ウィーイ!」

ここのところ、俺は、「もしもし」や「はい」ではなく、
「ウィーイ!」と電話に出ることにしている。

「寝てただろ?」ブラックスの静かな声。

大抵の友達は、俺の「ウィーイ!」に対して、
戸惑う者ばかりだが、ブラックスは、ペースを乱されない。
やっぱり寝てたのはわかるんだなと思いながら「ああ、寝てた」と俺は答えた。

ブラックスは「起きろ」と静かに言葉を続ける。

大抵の友達は、「あっ、寝てた。ごめんね。じゃあ、また今度、かける」と言う者がほとんどだが、
当たり前のように「起きろ」と言うブラックスの言葉を聞いて俺は笑った。
あいかわらずだな。

「10月8日はあいているか?」とブラックスに訊かれ、
俺は、パソコンの画面で、曜日を確認した。
10月8日は、連休前の金曜日だった。

「所沢に行かないか?チケットが一枚余っている」

所沢に行かないかという時点で、
それは野球の試合を観に行かないかということをあらわしていた。

「いや、俺、巨人ファンだし行かない。しかも、連休前に仕事の休みなんてとれねえよ」

「野球好きの子を一人で行かせられないだろ?」

野球を観に行くのはブラックスじゃないのか?野球好きの子・・・。
俺は記憶を辿る。
ブラックスの友達で、野球好きな女の子。
そうだ、去年だったか、札幌ドームで、
ブラックスから紹介された女の子だ。
顔も思い出せないが、ロッテファンだったというのは思い出した。

「つうか、その子、結婚してるだろ?旦那と行け、旦那と」

ブラックスはいたずら好きで、時に、むちゃくちゃだ。
あり得る。ブラックスなら本気で言っているというのもあり得る。

「そんな挨拶程度しか話したことない奴が隣にいるくらいなら、一人で行った方がましだろうが」と俺もさらさら行く気がない。


その電話が、西武対ロッテのクライマックスシリーズから、
どう1988年の「10.19」の話になったかは定かではないが、ブラックスはこう言った。

「良いか、これからYou Tubeで10.19を観てくれ。見終わったら電話をかけ直してくれ」
時計を見ると夜の0時だった。

もう一度言う。
ブラックスは、時にむちゃくちゃだ。

ブラックスの言葉を無視して、そのまま布団に入るというのも考えられなくもなかったが、
パソコンの前に、たまたま座っていたし、
俺はブラックスが言うYou Tubeで10.19を検索し、
そう言えば、後輩が北海道に来る時におみやげで持ってきてくれた”プロ野球80年代大事典”があったなと、本を傍らに置き、
ぺらぺらと10.19のページに辿り着いた。

1988年10月19日。
ロッテ対近鉄ダブルヘッダー
そのダブルヘッダー近鉄ペナントレースを制することができるかどうかが決まる。
ただ、ロッテに2連勝するというのが条件。
引き分けすら許されない。
そんな試合だった。

1988年は、俺達がまだ小学生の時の話だ。
そして、俺は巨人ファンだ。
この試合を俺は知らない。
10.8は知っていたけれど、10.19は記憶に全くなかった。

俺は、半分、寝ぼけた状態で、パソコンの画面を観た。











「すげえ」感嘆の声を心の中で呟き、そして覚醒。
この試合を観ると、今、行われているクライマックスシリーズについて考えさせられる。

この年のロッテは最下位だったのだけれど、
弱いチームだとは思えない、まさしくプロフェッショナルの集団。

そして、そのダブルヘッダーにかけた近鉄の選手達は、
まるで甲子園球児のように喜びを全身で表現し、
トーナメントを戦うかのような必死さがひしひしと伝わってくる。

こんなドラマティックな試合もなかなかない。


俺は、見終わった後、約束通り、ブラックスに電話をかけ直し、
ブラックスのせいで、目がさえちまった。



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