どんまい

いろいろあるけれど、それでいい

海賊のおじさん(2)

左足切断の手術をして日常に戻り、1ヶ月ばかりが過ぎた。
今年は何て最悪な始まりなんだ。

俺は、銀色の松葉杖を助手席に立てかけて、車のエンジンをかけた。
チェンジレバーを”D"に合わせる。


医者に聞き慣れない病名を告げられてからの日々も、
なかなか最悪だったけれども、
左足を失った今は、もっと最悪な気分だ。
そりゃあ、そうだ、病名を告げられても左足はあった。

運転する車の窓から、歩いているおばさんを眺める。
無意識に足の部分に目がいく。
当たり前のようにあったものがなくなるのは、これほどまでに辛いのか。

病気になる前も一度は考えたことがある。
もしかしたら、事故にあって障害が残る可能性もある。
自分に障害がないにしても、子どもが障害を持って生まれてくる可能性もある。
年をとって認知症になる可能性は結構あるかもしれない。

そうは、考えてみたものの、その時の俺は20代だったし、
何か、別の世界の話のような感じもした。


何で俺なのよ。


この1ヶ月、何度となく振り返った過去は、
楽しかったことばかりだった。

その時には、その時なりの悩みがあり、
嫌なことも結構あったはずなのに。
人間の記憶は、都合の良いようにできているみたいだ。


家で、じっとしていると気が滅入ってくる。
そんな時は、外に出る。
外に出ると言っても、ここのところは同じ場所に向かう。


車のチェンジレバーを”P"にし、エンジンを止め、ドアを開けた。
足をドアから出し、体を伸ばして、助手席の松葉杖に手を伸ばす。


パチンコ会館”玉将”。
何ヶ月もの間、パチンコはしていなかったけれど、俺は、ここにきて再び、パチンコを始めた。


王将ではなく玉将と書き、”おうしょう”と呼ぶ。
将棋の駒みたいな店の名前だ。



※今回の話はフィクションです。

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