左足切断の手術をして日常に戻り、1ヶ月ばかりが過ぎた。
今年は何て最悪な始まりなんだ。
俺は、銀色の松葉杖を助手席に立てかけて、車のエンジンをかけた。
チェンジレバーを”D"に合わせる。
医者に聞き慣れない病名を告げられてからの日々も、
なかなか最悪だったけれども、
左足を失った今は、もっと最悪な気分だ。
そりゃあ、そうだ、病名を告げられても左足はあった。
運転する車の窓から、歩いているおばさんを眺める。
無意識に足の部分に目がいく。
当たり前のようにあったものがなくなるのは、これほどまでに辛いのか。
病気になる前も一度は考えたことがある。
もしかしたら、事故にあって障害が残る可能性もある。
自分に障害がないにしても、子どもが障害を持って生まれてくる可能性もある。
年をとって認知症になる可能性は結構あるかもしれない。
そうは、考えてみたものの、その時の俺は20代だったし、
何か、別の世界の話のような感じもした。
何で俺なのよ。
この1ヶ月、何度となく振り返った過去は、
楽しかったことばかりだった。
その時には、その時なりの悩みがあり、
嫌なことも結構あったはずなのに。
人間の記憶は、都合の良いようにできているみたいだ。
家で、じっとしていると気が滅入ってくる。
そんな時は、外に出る。
外に出ると言っても、ここのところは同じ場所に向かう。
車のチェンジレバーを”P"にし、エンジンを止め、ドアを開けた。
足をドアから出し、体を伸ばして、助手席の松葉杖に手を伸ばす。
パチンコ会館”玉将”。
何ヶ月もの間、パチンコはしていなかったけれど、俺は、ここにきて再び、パチンコを始めた。
王将ではなく玉将と書き、”おうしょう”と呼ぶ。
将棋の駒みたいな店の名前だ。
※今回の話はフィクションです。
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