ぷかぁ、ぷかぁっと、喫煙所で一人、煙草の煙を吐く。
めんどくせぇなって始まった研修も今日で終わる。
全国各地から集められた20代半ばの中堅職員40人。
一週間の長きにわたり、山に籠もっての団体生活。
中学生や高校生の時は、宿泊と名がつくものなら、
あんなに喜んでいたのになぁと10代を思い出しながら、
夜空に浮かぶ、まあるい月を眺めた。
そこに、今回の研修に参加していた男性が入ってきた。
名前はなんだっけ?すぐには思い出せそうにない。
「疲れました」と溜息を吐きながら男は煙草に火をつける。
「人に合わせるのは疲れます」
みんな、それなりに馴染んできて、楽しそうに見えたけど、
こういう人もいるんだな、そりゃそうだと思いながら、
「そうですか・・・」と静かに答えた。
それから、この一週間のことを、
ああだった、こうだったと話をし、
「俺、先に戻ってますね」って、
その人は、喫煙所を去っていった。
携帯電話を開くと夜中の2時をすぎていた。
夏なのに、山の中はさみぃ。
俺もそろそろ戻ろうか。
喫煙所を後にして、暗い施設内を歩きながら、
さっきの人が最後の方で言った言葉を思い出した。
名前なんでしたっけ。山口県から来ていていた女の子。何か辛そうでしたね。スポーツもすごい苦手そうだったし。
確かに、言われてみれば、そうだったかもしれん。
そういえば、最後の飲み会にもいなかったなぁ。
今回の研修に参加していた40人ってのは、
中学校や高校の時の一つのクラスと同じ人数。
研修は、初対面の人ばっかりだったけれど、
日にちが経つにつれ、
リーダーシップをとる奴、
それなりに楽しそうにしている奴、
馴染めない奴、
不思議と中学校や高校の時のクラスのような感じになっていた。
そんなことを考えていたら、
俺が10代の時に、どんな人間になりたかったかを思い出した。
俺、強く優しい男になりたかったんだっけ。
寂しそうにしている人がいれば、
さりげなく声をかけられる男になりたかった。
なりたかった自分ができてから、
辛そうにしている人や寂しそうにしている人には気づくことができた。
ただ、気づいて終わり。
どう言葉をかけて良いんだろうって考えているうちに、
結局、何も言葉をかけずに過ごした。
だから、結果的には、何もしなかったのと変わらない。
なりたかった自分に近づいてねぇなぁ。
最近は、なりたかった自分すら忘れていたもんなぁ。
研修は、明日の朝に終わる。
その子と話をできそうにもない。
たぶん、づづく。
※今回の話はフィクションです。
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