月光(2)
俺は、来た道を引き返した。
『このまま帰るのも、なんか、もったいないな。
どうせなら、温泉にでも入っていくか』
そう思った俺は、”吹上温泉”で車を止めた。
駐車場には、2台の車が止まっていた。
吹上温泉に来たのは二度目だ。
一回目は、高校を卒業して、すぐの頃、
数人の友達と来た。
この温泉は、無料の露天風呂。
電気がなくて、その時も、夜中に来たから、
まったくもって、あたりが見えなかった。
服を入れる”かご”くらいしか置いていなかったような気がする。
思いっきり、すべって、けつを打った。
そんな記憶しかない。
俺は、車に入れて置いた、
いや、置いたままになっていたバスタオルを手にし、
吹上温泉に向かおうとした。
が、あまりの寒さに、
気持ちまでも、一気に氷点下。
家の風呂に入った方が良いな。
外に出て1分足らず、
再び、車に引き返し、ハンドルを握った。
一本道を引き返す。
そして、T字路にさしかかる。
このまま右折をすれば、
上富良野の町に出て、
あとは帰るのみ。
帰路。
『やっぱり悔しいなぁ。こんなに月が綺麗なのに・・・』
後ろ髪を引かれ、再び、ブレーキを踏む。
車を止め、顔を左右に動かし、周りを見渡す。
ん?
一つの灯りが見えた。
望岳台をひたすら目指してきたから、
あんなところに灯りがあることすら、
目に入っていなかった。
行けるのか?
灯りがあるってことは、行けるのだろう。
行けなければ、引き返せばいい話だ。
標高から言えば、
ここより、さらに上の地点に、
その灯りはあった。
俺は、来た道とは逆、つまりは左折し、
その一つの灯りを目指した。
思いのほか、急勾配。
ただ、確かに、そこには道があった。
丁寧に除雪をした跡もある。
一気に車で駆け上る。
こうして、よくわからない場所に辿り着いた。
”上富良野八景”
木で作った立て看板が雪とともに立っていた。
俺は、車から降り、
なんとなくある足跡を辿り、歩く。
すげぇぇぇ。
すごいけど、怖い。
怖いし、寒みぃぃぃ。
落ちたら、のぼってこれねぇぞ、この高さ。
そして、この寒さ。
こえぇぇ。
怖いけど、綺麗。
俺の目の前には、
月光に照らされた、
青白い世界が広がっていた。
車に引き返し、友達に電話をした。
「よくわからねぇけど、すげぇところに辿り着いたぞぉぉ」
すでに次の日。
1:00。
三脚を車から出し、
カメラをセットする。
シャッタスピードを遅く設定する。
シャッタスピードを遅くするってことは、
ボタンを押して、すぐには写真が撮れない。
待つ時間ができる。
待っている間も凍え死にそうだ。
この痛いような寒さ。
久々だ。
たぶん、この寒さからいくと、マイナス20度。
雪がキラキラと光っている。
あまりの寒さに、写真が撮れるのを待ってられない。
ボタンを押して、ダッシュで車に戻り、
再び、撮れたかなと、現場に戻る。
何度となく、繰り返した。
次の日、いや、その日の朝、
母が何気なくこう呟く。
「朝、マイナス20度になったみたいだね」
俺の野生の勘は健在だった。
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