何度目のダウンだろう。
あの時が1回、あの時で2回、あの時もあるから3回・・・。
早くカウントを数えてくれレフェリー・・・。
早く俺を楽にしてくれと、耳を澄ましても、
レフェリーのカウントは聞こえない。
うっすらと目を開ければ、
レフェリーは、首を横に振っている。
・・・・。
かと、思いきや、
ダウンをしているところを、
さらに足蹴りされ、リングからも、すべり落ちそうだ。
いや、もう無理だって、もう無理だってと、
蹴られるだけ、蹴られる意識の中、
うっすらと、気づく。
レフェリーは、カウントを数えたためしがない。
自分の足で立たなければ、蹴られるだけ蹴られるのか?
体がバキバキ言いやがる。
覚束ない両足で、
なんとか立ち上がり、
ファイティングポーズをとる。
まるでボクシングみたいだと思ったけれど、ボクシングじゃないのか?
ダウンしてるのに、足蹴りだもんな。
それにしても、長い戦いだ。
もう何十年と戦い続ける日々だ。
今が何ラウンド目かも忘れた。
安息は束の間、
あったのかさえも、よくわからないくらい。
シャワーのようにパンチを浴びる。
またか?
顔から血が噴き出す。
必死でガードを固める。
相手は、ガードの上からも打ってくる。
何度も殴られ続ければ、
ちょっとくらいは、痛みに耐えられるようになってくる。
そんな気がした。
気がしただけなのか?
痛みは、その時、その時に感じるのが、一番、痛いんだとも思う。
新鮮なほうが、イキが良いのは、何も魚ばかりじゃない。
くだらねぇな。
こころの中で、吐き捨てる。
逃げるためには、
手をださんと、逃げられんな。
そんなことを、必死で考え、
バキバキ言いやがる体に言い聞かせ、
意味がないパンチかもしれないけれど、
必死で手を出した。
もしかしたら、カウンターを喰らい、
さらに痛い目を見るかも知れない。
そのパンチは意味がないかもしれない。
それは、俺にもわからない。
ただ、殴られ続けるだけでいいのか?
この戦いは、日本のどこかで行われている一本勝負。
無制限ではないけれど、
いつか終わるであろう一本勝負。
そんなリングに立つ一人の男の物語。
何ラウンド目かは忘れた。
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