すごい陽気で、俺の母ちゃんよりも年上のおばちゃんが一人いて、
そのおばちゃんは、いつも笑顔で、分け隔てなく、人に声を掛ける。
俺が、この土地に来たばかりで、誰も知っている人がいなかった頃、
陽気に声をかけてきてくれたのも、このおばちゃんだった。
そのおばちゃん。
今まで、二度ほど、すごい落ち込んでいることがあってね。
昨年の夏の話だ。
旦那さんが亡くなってね。
そりゃあ、もう生きている意味がないくらいな感じで、俺は、声をかけるのも緊張した。
言葉がみつからない。
やっと、少しずつ、少しずつ、元気になってきた数ヶ月後、
今度は、地震だ。
中越沖地震。
「地震、大丈夫でしたか?」俺は、そう尋ねると、
「だめだったよ。避難しろって。旦那との思い出の家も奪うのかって思ったよ」
「追い打ちをかけるんじゃねぇよ。地震」と俺は、心の中で頭を掻いた。
そのおばちゃんは、仮設住宅に入った。
あれから、少しばかりの時が流れ、冬。
おばちゃんは、元気だ。
たぶん、俺の知らないところで、いろんな人が元気をわけたんだろう。
おばちゃんが、知らず知らずのうちに、人に配っていた笑顔は、
おばちゃんが辛い時に戻ってきたんだろう。
昨日、そのおばちゃんから「伝言だ」って言う人がいて、
俺は珍しいこともあるもんだなって話を聞いた。
「明日、津軽三味線を弾くから聴きに来いって。あなたが津軽三味線好きだから、
来たいはずだって言ってたよ」
「は〜」俺は力なく返事をし、「津軽三味線が好きだって、言ったことないっすよ」と答える。
おばちゃんの中で、どこで、どう、俺が、津軽三味線好きってことになったんだろう。
俺のイメージか?
三味線に興味もないから適当に話しを聞いていたんだけど、
また、少したった頃、
「明日、来れるかな?来れるかな?」って言ってたよと二度目の伝言。
「明日、用事あるんだよなぁ」と思ったけれど、時間と場所だけでも、
聞いておくかって、伝言をしてくれた人に聞き直した。
「3時半だって」
やっぱ、無理だ。
おばちゃんの喜ぶ顔は見られそうもない。
今度、会った時に謝るか。