空は鉛色。
枯葉を一気に落とすかのように、「ビュウ、ビュウ」と風が吹く。
左右に揺られる木に、鴉が一匹。
「さみぃだろうな」と、俺は窓越しに、その鴉を眺める。
風が冬をつれてくるみたいだ。
北海道にも、雪が積もった頃だろうな。
夜の訪れも、めっきり早い。
夜の訪れが早いのも淋しい限りだ。
暗くなったら、家に帰らないといけない。
そんな幼い日の記憶が残っているのだろうか。
夕飯の時間には、まだ早い、そんな時間。
俺の携帯電話がなる。
「珍しいな」
そう思いながら、電話を耳にあてる。
「兄ちゃん、正月に帰ってくるの?帰ってくるなら、仕事の休み合わせるけれど」
珍しく、北海道にいる妹からの電話。
「まだ、わからんけど、できるだけ帰りたいとは思ってる」
「ばあちゃんも心配してたよ」
「ばあちゃんが心配するのは、俺に限ったことじゃないよ」
そう言い、ばあちゃんの顔を思い出す。
「そうだね」と妹は、うなずく。
「それで、バリはどうだった?」
いつだったかも忘れたけれど、
妹が初の海外旅行に出かけた感想を聞いていなかったと思い出し、質問する。
「良かったわぁ。あの潜るやつ」
「スキューバか?」
「そうスキューバ。ただ、怖くてすぐに上がった」
俺は、見てもいないバリの青い海を想像する。
「あぁ、ジョーズが出るからな」
「ふふっ。酸素が上手く吸えなくてさ」
酸素が、うまく吸えないってあり得るのか?
「もったいねぇな。良いなぁ、スキューバ。そういえば、俺も素潜りしてるよ」
「金がないから、とうとう漁?」
「馬鹿野郎」
話を聞けば、高校の時の同級生4人で、バリに行ったらしい。
スキューバが楽しかったって割には、すぐに上がったって言ってたし、
そりゃあ、楽しいうちに入らないだろうと思ったけれど、
友達と一緒に過ごす時間が最高だったってのは、聞かなくてもわかる。
今でも、高校の時の友達を大切にしていることが、
何か嬉しくて微笑んで、妹の話を聞いた。
妹が、高校を卒業して、数年経った頃だろうか。
新しい環境で、新しい友達もでき、楽しげに生活している妹に、俺は、こう言った。
「新しくできた友達も大切にするけれど、今まで出逢って、仲良かった奴も、
ずっと大切にしろよ。仲良くなれる奴は、そうそういるもんでもない」
「うん」と、素直に聞いた妹は、
俺の話を聞かなくても、
今まで出逢ってきた友達を大切にしているんだろうな。