前の席に座っていた、大切なあなたに贈る。
「先生、先を越されちゃったね」
「うん、いきなり先を越された。びびったよ」
「今回も、本当にありがとう」
また、一人、教育実習の頃に出逢った生徒と連絡がとれることになり、
俺の話をしてくれた生徒にお礼を伝えた。
次の日、その生徒から電話がかかってくる。
それだけで、その日は、良い1日。
「おお、元気だったか。それにしても、今回はびびったよ本を出したんだってな」
何がびびったかって、何が先を越されたかって、本を出したということ。
「金がねぇ、金がねぇ」と、その弾丸が、なかなか補充されないまま、
足踏みをしている間に、すでに本を出している生徒が1人。
「いつ出したんだ?」、「どこの出版社から出したんだ?」、「本を出したかったのか?」と質問を連発する。
まあ、後に俺の話も連発することになるんだけどね。
「高校の時は、自分が嫌いでどうしようもなかった。自分1人くらい、いなくても良いんじゃないかって思ってた」
「働くようになって、好きな人達のライブに行って勇気づけられたんだ」
「本を出して、本当に良かったと思うよ。本を出していなかったら、先生がしている話を聞いても、ふ〜ん、そうなんだ程度だったと思う」
「今、すごい楽しい」
そんな想いで過ごしていたのかと初めて知り、
今、現在、笑って、過ごしていることを知り、
喜びを感じた。
「よし。俺も、応援するよ」
平凡であろうが、笑って過ごしていれば、それだけで嬉しい。
そこに夢があって、目がギラギラしているのも、また嬉しい。
「サインをした本を、先生に贈るよ」
「いや、本を買うから、今度、会った時に、サインをしてくれ。ちなみに、俺もサインを持っている」
俺は、今、その本が、家に届くことを楽しみに待っている。
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『一番前のまえならえ』:ありなゆん著