旅行に行く前日は、実際に、旅行に行ってる時のように楽しい。
俺は、その前日を、「前夜祭」と呼ぶ。
特に何をするというわけじゃない。
気分の問題。
前夜祭とつけるだけで、1日、楽しむ日が増えたみたいに感じる。
前夜祭から、一人オールをするのも、また良し。
それくらいのテンションで、前日は、臨みたい。
年末、年始と北海道で過ごすことにした俺は、
フェリーの中で、前夜祭を行うことになる。
あまりにもひどい悪天候。
人は、それを「オオシケ」と呼ぶ。
船の中は、まるで遊園地。
ざっぶん、ざっぶんと荒い波。
上下に揺られる体。
船に乗っているのに、遊園地の乗り物に乗っている気分。
遊園地みたいに感じるだけで、もはや前夜祭だと思うが、
このまま起きていたら、確実にK.Oは、1ラウンド目に訪れる。
そんなことを考えているまもなく気持ち悪い。
こうなったら、もう寝るしかない。
朝、起きても、まだまだ続く前夜祭。
持参した本も、もう読み終わった。
暇すぎる。
もうこれは、軟禁だなと、あまりにも暇を持て余し、想像を巡らし、時間つぶし。
もし、この船が大波によって、沈んだら。
誰しもが、飛行機に乗った時には、想像するんじゃないだろうか。
こんな鉄の塊が、空を飛ぶなんて、ありえない。
もしや墜落するかもしれない。
船もまた然りなわけだ。
こんな鉄の塊が、水に浮いているなんて、ありえない。
もしや沈没するんじゃないか。
ここから見える陸まで泳ぐか?
いや、俺は、25メートル泳ぐのが、精一杯。
それは小学校の時の記録だから、
今は、そんなに泳げる自信も無い。
陸に辿りつく前に、確実に体力は、尽きる。
しかも、服を着てると、さらに体力が消耗するって聞いたこともある。
そうこうしているうちに、救助がきて、
海に、ぽつんと、一人。
絶対、発見されるわけがない。
グッバイ。
やはり、ここは、でっかい船の近くにいることが一番ベストだな。
船に乗ること、ウン十時間。
もう数えるのすら、めんどくさい。
俺は、両生類みたいだ。
やっと、陸だと、辿りついた北海道。
ただいま、北海道。